前髪を切りすぎた。




「ど、どうしよう隆也ぁ…」


隣のクラスである1−7の教室、私はおでこ(というか前髪)を両手で隠したままの状態で今現在私に無理矢理昼寝時間を中断させられた彼氏である隆也の元へたどり着いた。隆也は私を見て少し驚いた顔をする。昼休み、本来私は自分のクラスである1−6の教室で友達たちとご飯を食べ終えおしゃべりをしているはずだった。しかし、友達一号(ちょっと…いやかなりおしゃれな女子だ)が取り出した美容師セット(と言う名のハサミとヘアーアクセとワックスとガスコテ)により私はこうして隆也の元へ来訪する羽目になったわけだ。つまり、友達一号にいいように髪をいじられて、これ以上は危険だと判断して逃げてきたというわけ。しかしながら教室から出るときに扉のガラスに映った自分を見て、あぁ時すでに遅しだったか!と悟ったわけで。こうしておでこ(というか前髪)を両手で隠しているのである。っと、話が少しそれてしまった。隆也は私をまじまじと見て、眉間にしわを寄せた。


「どうしたんだ?デコ。」
「…うぅ……前髪、切られた。」
「誰に。」
「…友達。」
「……あぁ、あのパーマか。」


隆也は納得したのかうなづき、それから私に座れよと言ってあごで隣の席を指した。私は隆也の指示に従い、素直に隆也の隣の席に座る(ただしやはりおでこ…以下略、は両手で隠したままである)。すると隆也は私が座ったのを見届けると私の両手に手をかけた。私は驚きながらも必死で抵抗したが、いかんせん、私は女で隆也は男。抵抗むなしくすぐに両手は私のおでこ(というか前髪)から離れていってしまった。


「……ううう、短いよね、子供っぽくなっちゃったよね…」


何かコメントを言われる前に、予防線として自分で否定的な言葉を言っておいた。特に意味はないが、こう言っておいたほうが『似合わない』だとか言われるとしてもダメージが少ないような気がしたのだ。隆也は私の言葉などあまり聞いてもいない様子で、私のおでこを見てニヤニヤと笑っていた。


「似合うと思うけど?」
「…へ?」


予想もしていなかった隆也の言葉に少し驚く。本当?嘘でしょう?と訝しげに隆也を見ていたら、おでこにチュ、と暖かい感触が降ってきた。私は驚いて咄嗟におでこに両手を当てる。…いま、隆也……おでこにキスした?!


「ちょ、隆也?!」
「こーいうこと出来るようになったし、いいんじゃねぇの?」
「はぁ?!」
「それとも、似合わねぇとか言ってほしかったわけ?」
「…そ、そういうわけじゃないけど!」
「俺は、その前髪、可愛いと思うぜ。」


隆也はそう言って、ニヤッと笑った。私は隆也に『可愛い』と言われたのが嬉しくて、とろけてしまうんじゃないかと思った。その後付け足すように耳元で、ちょっと馬鹿っぽくて、と付け足されたのはムカついたけど。