「ねぇ花井。キスしてくれないの?」


私の言葉に花井は飲み込んでいたお茶を吹き出した。
やだ、汚いなぁ…と呟いて花井を上目遣いで見つめる。
ここは教室。
本当は花井と私の2人きりで勉強のはずだったのに、花井がいきなり野球部メンバーを連れてきたのだ。
折角久々花井が部活無いからデートだ!てはりきってたのに、野球部のみんなに勉強を教えてばかりでぜんぜん私にかまってくれない花井。
私はそんな花井に腹を立てて、いつものように花井をからかったのだ。


花井の向こうにいた田島君が、え、何、花井チュウすんの?!と嬉しそうに聞いてきた。
私が笑顔でうなづくと、田島君ははしゃぎだす(人のキスでどうしてはしゃぐのだろうかね)。
花井は吹き出したお茶を拭いた後、真っ赤になりながら私に詰め寄ってきた。


…お前!」
「なぁに、花井。」


真っ赤になった花井に笑って答えたら、花井は言葉を詰まらせた。
花井の顔をじっと見つめると、田島君がチュウー!とはやしたてる。
すると、周りの野球部メンバーが一挙にこちらを見た。


「何、花井、また人の前でイチャついてるわけ。」
「阿部!“また”ってなんだまたって!」
「いつも教室でイチャついてんじゃん。」


阿部はシレッとそういった後、何もなかったかのように三橋君に勉強を教えてた。
まるで母親だ…と思ったけど、それはあえて言わないことにする。


「ねぇ、花井。キスしてくれないの?」
「あ、後でいいだろ!?」
「今じゃなきゃ駄目。」
「なんでだよ」
「ヒマだから。」


私の言葉に花井は絶句した。
花井の後ろでは早くチュウしろよ!と田島君がはしゃいでる。


「うわー…やっぱは女版阿部だな…」


水谷が笑ってそう言った。
ちょっと、失礼じゃないの?と私が睨んだら水谷はそのまま黙る。


「ほら、花井。早くキスしてくれないと、私水谷とキスしちゃうぞ。」
「は?!」


私の言葉にいち早く反応したのは水谷だった。
水谷の顔は真っ赤だ(オイオイ、冗談って察しろよ)。
私は水谷にネッ!と笑いかけながら水谷の横に座る。


「さぁ、花井!私の唇を水谷に奪われていいのかな?!」
「は…花井!俺のファーストキスがに奪われる!!」
「え…水谷初キスなの?安心しなさい水谷。私のキスは絶品だから!」
「知るかよ!」


私がニマニマ笑ってそう言うと、水谷は涙目で叫ぶ。
すると田島君が笑顔で私を見た。


ってキス上手なの?」
「そりゃあ。花井の情熱的なキスで鍛えられてるからね!」
!」


私の言葉に花井が真っ赤になって名前を呼んだ。
笑顔で何?と聞けば花井はマジギレ寸前で。
野球部のみんなの好奇の視線が私と花井に集まっている。


「いい加減にしないと…」
「怒るんだ、へぇ…花井が怒っても私へっちゃらよ?知ってるでしょ?」


キレるならそれもいいかも、と私はあえて花井の神経を逆なでするように言った。
すると花井はカッとなって私の手を引く。
水谷から引き離され、教室の外へ連れ出された。
私が離れた瞬間、水谷が安堵の息を漏らした(まぁムカつくわね)。


、みんなの前で何考えてんだよ!」
「別に。」
「あれじゃあみんなが勉強に集中できないだろ?!」
「…へー。花井は私のことよりみんなの勉強取るんだ。へー。」


シレッとそう答えて、花井を睨んだ。
花井は私を少し見た後、溜息をつく。

「別にそういうわけじゃないけど。でも、本当に皆の前でアレは無いだろ?」
「知らない。花井が私を放っておくからだよ。」
「……ごめん。」
「キスしてくれなきゃ、許さない。」


教室の中からこちらを見ているみんな(ていっても、田島君と水谷と泉君と栄口君と巣山君だけど)に気づきながら花井にそういった。
花井は少し固まった後、触れるだけのキスをくれる(どうやら花井はみんなが見てることに気付いていないらしい)。
けれど、それだけでは終わらないのが私だ。


「そんなじゃだめだよ。」
「…あのなぁ。」
「なぁに、花井は私の暇つぶしに水谷のファーストキスをくれるの?」
「そういうわけじゃないけど。」
「あーぁ、水谷がかわいそうね。初めてが私じゃ、後々普通の女の子じゃ満足できなくなるよ。」


そう言った瞬間、教室の中の水谷が怯えるように首を横に振った。
私はそんな水谷を見て内心笑いつつ、花井の手をつかんだ。


「いつもどおりのキスをちょうだい。」
「…わかった。」


しょうがなさそうに息をついて花井はそう言った。
花井に逆に手をつかまれて、引き寄せられる。
そしていつも通りの深い口付けをされた。


私は花井に翻弄されつつ、至極満足した。




花井には今、私しか映っていない。


















わがままな独占欲
(あっ、花井とさんがベロチュウしてる!)(田島、あんま見んなって!バレるぞ?!)