太陽が沈みかけたくらいの時、私は晩御飯の材料の買出しに近所のスーパーに向かった。
父親の使わなくなった書斎代わりのマンションに1人で住んでいる私は、最近迷惑な居候がいるせいで食材の消費が早い。
「人識の所為で、今月は食費がかさむ。」
私はそう言って、財布の中身と隣にいる人識を見比べた。
すると人識は、は?と私を見た後、笑う。
「だから、お前、俺の金使えばいいって言ってんじゃんよ。」
「人殺して、その人の財布の中から盗ったお金なんて使いたくないんですー。」
私はそう言って、じろりと人識を見る。
そしたら次の瞬間、小さなくしゃみが・・・
「へっくし!!」
「おぃおぃ、んな寒い格好して出てくるからだって。」
人識はそう言って、自分が羽織っていた赤いジャンパーを私の肩にかける。
そんな小さな事でも、嬉しいと思ってしまう私が嫌だ・・・。
春先ッつっても寒い事くらい、今まで生きてきた中で学ばなかったのかよ。と人識は笑った。
「そんなちょこッとくらい優しい事したからって、私はたぶらかされないよ?」
私はそう憎まれ口を叩きつつ、人識のジャンパーにそでを通す。
さっきまで人識が着ていたからか、中が結構温かい。
「んな、たぶらかそうなんて、誰が思うかっての。」
「あ・・・んたねぇ!!」
ムカッときて、人識の胸倉を掴もうとしたけど、すぐに止めた。
殺人鬼、の彼に私みたいな一般人が敵うわけないってすぐに気付いたから。
私は溜息をついて、今日のメニューは何にしようと呟く。
すると、人識はニカッと笑った。
「オムライス、なんってのはどうだ?」
「・・・あんた、好きなの?オムライス。」
意外だ、と言わんばかりの顔で、人識にそう聞く。
人識は少し考えたあと、別に、と答えた。
「この前テレビでやってたんだよ、“ふわふわ卵のオムライス”。」
「は?」
「いやー、めっちゃ美味そうだったから食べたいとか思って。」
「あんた、それを私に作れと言うの?」
「おう。」
人識は自信満々にそう言って、エッヘンと胸をはる。
私はそんな人識を見て溜息をついたあと、財布の中身をもう1回確認した。
うん、足りるかな。
「多分そんな美味しくは作れないよ?」
「ダイジョーブだって。お前料理美味いじゃん。」
「・・・//////」
ちょ、なに照れてンの、私!!
と心の中で自分にツッコミを入れつつ、赤くなっただろうと思われる自分の頬を手で覆った。
見られてたまるか、こんな顔。
絶対に、からかわれるに決まってるんだから!!
「赤くなってねぇ?」
「な・・・なってない!!」
顔をブンとおおきくそむけて、大きな声でそう言った。
すると、人識はカハハと笑う。
「なんかよ、こうやって一緒に晩飯の材料買いに行くのって…」
「・・・なによ?」
「新婚ホヤホヤ夫婦みてぇじゃん。」
「・・・・・ハァ?!」
人識の言葉に、隠せないくらい顔が赤くなった。のがわかる・・・。
だめ、照れちゃ駄目だって!!
コイツは特にそんな変な意味をこめていったわけじゃないんだから!!と自分に言い聞かせた。
「ひ・・・人識、なに言ってんの!?」
「・・・・なァ、知ってッか?」
私の質問なんて無視、で。
人識は私にそう聞いてきた。
何が知ってる?よ、何が。
主語が抜けてるわよ、主語が、と言おうかとした時、人識はすんごい愉しそうに笑う。
「好き、だぜ。」
「は?」
「いや、だから…知ってる?って聞いたじゃんよ、オレ。」
「あぁ・・・あぁ!!って…えぇぇ?!」
驚いて大きな声をあげたら、周りのウォーキングだとか買出しの帰りだとかのおばさま方から痛い視線を浴びた。
「知らなかったろ。」
「・・・・し、知ってたわよ!!」
強がりで言ってみたら、人識は愉しそうに笑って、ヘェ?と言った。
……イヤラシイ笑みだこと!!
「何で笑ってんのよ・・・ッ」
「べーつにー。お前強がりだなって思ってよ。」
人識はそう言って、笑った。
それからすぐに、人識の顔が目の前にきて、唇に温かい物が触れる。
ソレが人識の唇だと気づくのに、さほど時間はかからなかったけど。
あまりにも意外なことだったので・・・、長い時間思考回路が停止していた。
「オーィ、ダイジョブか?どっか逝っちゃってネェ?」
「・・・・ッ、」
目の前で手を振られて、気がついたら照れて顔が真っ赤になる。
今度はそれを上手く隠す事が出来ず、私はそんな姿を人識にさらす事になった。
青春サンセット
(赤くなった頬を夕日の所為にしようとしたら、もう一回優しいキスをされた。)