キスしたい、目の前にいる先月出来たばかりの恋人がそう言ってきた。




「…降谷くん、あの、今、なんて?」
「だから、キス、したいって。」


動揺して聞き返す私に対し、答える降谷くんはいつもと変わらない口調だ。なんで普通にそんなこと言うの、と混乱した頭の中でこっそりとツッコミを入れてみても私は落ち着きを取り戻せない。キス、なんて単語、降谷くんの口から出てくるなんて思ったこともなかった。降谷くんが何を考えているのかわからなくなり、降谷くんの顔をマジマジと見てみたが、ソレが失敗だった。いつもと変わらないはずなのに、目が合った瞬間気恥ずかしくなってしまい、すぐに顔をそらす。わ、私、どうしちゃったんだろう。なんで急にそんな、降谷くんと目が合っただけで恥ずかしくなるなんて。


「どうしたの?」
「なっ、なんでもないッ!」


明らかにムスッとした降谷くんの声に思わず声が裏返る。わ、これじゃあ動揺してることがバレバレだよね…、と思っても見たがどうしようもない。恥ずかしさの所為で降谷くんの顔がどうしても見れなくて、私は膝の上で組んだ指を眺めていた。降谷くんがマニュキアを塗ってあげたお礼にと私の爪に同じマニュキアを塗ってくれるため、私の爪はひどく艶がある。その艶めきをジッと見ていたら、降谷くんが、ねぇ、と私の頬を撫でてきた。


「…な、なに?」
「僕の言葉に対しての返事、まだ?」
「へ、返事って…」
「キス、するの嫌なの?」


降谷くんの声に思わずその目を見てしまったが、失敗だ。視線がぶつかり、そのまま、逸らせない。見つめられて、低い声で問われる。降谷くんは、ずるい。そんなかっこいい顔で見つめてきて、そんな素敵な声で問いかけてきて。


「いや、じゃ、ない…」


そう言った瞬間、そう、と降谷くんは一言言ってすばやく私の唇を奪う。触れるだけ、一瞬のキスだけれど、私の心臓を故障させるだけの効果はあった。ドキンドキンと高鳴る心臓が、ひどくうるさい。


「…顔、赤いよ。」
「……仕方ないじゃない、照れるんだもん。」
「慣れれば、照れることもなくなるんじゃない?」
「…なッ、慣れるなんて…!」
「たぶんね、そのうち嫌でも慣れるよ。」


それってどういう意味?!と聞く前に降谷くんはまた、私の唇をふさいだ。