「小十郎さん、暇です。」
「そうですか。」


そ っ け な い ! !
筆を動かしたままこちらを見ようともしない小十郎さんの背中を眺めて、私は溜息を吐いた。
真面目な真面目な小十郎さん。
いつも、主である政宗さまのことを第一に考えて、暇さえあればお仕事。
一応恋仲である私がこうやって自室に押しかけてみても、お仕事優先。
私、折角お仕事終わらせてきたのに…(成実さんと政宗さまにお茶をいれてさしあげてきました!)

お城の女中として働いている私は、政宗さまと成実さんとは小さい頃から遊んでたから、仲がいい。
だから今日も、お茶を入れた後まだ私をこき使おうとしていた2人を思い切り睨みつけて、脅したのだ。
私がそうやって努力して(したのか?)手に入れた時間の価値を、小十郎さんはきっと分かっていない。
私は、最近とてつもなく減ってしまった2人の時間を取り戻したいのだ!!
だって、もう一ヶ月も接吻すらしてくれないのだよ!
一端の成人男としてそれはマズイでしょうそれは!!

だから、私は今日とある決心をしてきたのです。
それは…そう!!


小十郎さんに、接吻してもらうの!

私は、頑張るわ!
だって、女として魅力が無い…って事になりかねないもの!!
政宗さまや成実さんに宣言したら、お茶を噴出して笑われたけど…私はやるの!
頑張れ、私!!


「小十郎さん、小十郎さん。」
「なにか。」


振り向いてさえくれない小十郎さんに、少しムカッと来たがまぁそれはいい。
私は筆を動かす小十郎さんの背にのそりと抱きついた。
小十郎さんの肩に顎を乗せて、思い切り甘えてみる。


「小十郎さん、接吻、してください。」
「…不謹慎ですぞ。」
「知りません、そんなの。」


耳元でささやいてみると、少し低い声で返された。
だけど、そんな小十郎さんにも負けずに言葉を返す。


「一ヶ月。」
「…?」
「一ヶ月も接吻してくれてないんですよ、小十郎さん。」
「それがなにか。」
「そんなにも焦らされたら、女としての恥じらいだとかなんて構ってられないんですよ。」


私はそう言って、小十郎さんに回す腕に力を込めた。
すると、小十郎さんから大きな溜息がこぼれる。
あ、もしかして呆れられちゃったかな。


「離れていただけないか?」
「…はい。」


低い声で言われたら、逆らえなくなった。
呆れられたみたいでなんだか、やらなきゃよかった、って想いが溢れてくる。
拒絶される前に逃げ出そうと、襖に向かって歩き出そうとしたら、腕を強い力で引かれた。


「きゃ…」
「ご油断なされますな。」
「こじゅ…ろ……さん?」
「望まれてしまった以上、そのお望みにこたえないわけにもいかない。」
「へ?…ん」


腕を引かれ倒れたのは、畳の上。
上に小十郎さんがいるのに気付いたときには、小十郎さんは笑っていた。
小十郎さんの言葉と同時に、ふさがれたのは唇。
ほんの数秒だけ触れ合った唇は、すぐに離された。
私は接吻が終わった後立ち上がろうとするけれど、小十郎さんに阻まれる。


「あ、の。小十郎さ…んぅ」


また、接吻された。
今度は長い長い接吻。
小十郎さんは、接吻が上手い、と今更ながらに思う。
やっと唇が離されたとわかったときには、呼吸は乱れていた。


「は…はぁ…」
「だから、ご油断めされるなと申したのです。」
「…へ?」
「ご自分からお誘いになられた以上は、責任を取っていただこう。」
「え…?えぇぇぇ?!」


いつもは見れない不敵な笑みを浮かべた小十郎さんは、私の着物に手をかけた。
それって、どういう意味?!と聞こうとした唇が、またふさがれる。




甘い、眩暈がした。


















甘く痺れていく感覚
(あぁきっとあたしはこの感覚を知っている)