先輩の唇って、綺麗だよねぇ」
「へ?」


校舎のはずれにあるチャペルで夕日が差すステンドガラスを眺めていたら、隣で昼寝していたはずの利央がそう言った。
私は驚いて声をあげて利央を見る。
利央はまだ眠りから覚めきってない様子だった。
寝惚けているのか、利央は手の甲で目をこすった後、私の腰にギュウっと抱きついてきた。
寝ていたせいか高い体温の利央に抱きしめられて、少し熱い。
私は手に持っていた聖歌集を自分の横に置いて、そのまま利央の肩に手を置く。
利央はにこぉっと笑って私を見上げた。


「なぁに?」


自然と私も笑顔になって、利央に聞く。
利央は笑顔のまま別にぃ、とのんきな声で答えてきた。
利央の声は、甘く響く。
そんな声に心が和んで、私は利央の頭をくしゃりと撫でた。
利央はにへらぁっと笑ってくすぐったそうに瞳を閉じる。


「別になんでもないんだけどぉ」
「そうなの?」


クスクスと笑って言えば、利央も笑う。
利央の綺麗な髪に、ステンドガラスのカラフルな色が映った。
綺麗、と呟いたら、利央はゆっくりと私を見つめてきた。
そんなに見られると、照れちゃうんだけどな、と心の中で呟きながらも、私も利央を見つめ返す。
腰に抱きついたままだった利央が、私の腰から離れる。


「え?」


いきなり無くなった温かさに思わず声をあげた。
ゆっくりと利央が私の髪を撫でる。
私がそのくすぐったさに目を閉じると、そのまま温かいものが私の唇に降りてくる。
あ、キスされてるんだ。そう思ったら唇に意識が集中して、熱い。
唇が熱くて仕方無い。
私は利央の制服のシャツをギュッと掴んでキスを受け入れる。
すると、やっと唇が離れて、利央が笑う声が聞こえてきた。


「先輩のほうが、綺麗。」
「わかんない」
「さっき、俺、言ったよぉ?」


利央はそう言ってまた笑う。
にへらぁっとした笑顔に私まで笑ってしまった。
そうしてまた、利央は私の腰に抱きついて、うつらうつらと眠りにつこうとする。
私は笑って利央の髪を撫で続ける。
チャペルのステンドグラスの色が私の手にも映って、やっぱり綺麗で。
綺麗、と呟いたら、サンもぉ、と利央が言ってくれた。



























バンビの唇
(そのキスが、幸せの瞬間)