「さーかえぐちー!」
あたりがまっくらになった校門で彼の名前を呼んだ。
すると、彼は私に気付き自転車をひきながら走ってくる。
「?!え、なんで?」
「実はね、委員会があったから、さっきまでお仕事してたの。
それで、ついでに栄口のこと待ってようかな?って思って!」
えへへ、私ってばいい彼女だね!と笑って言ったら、栄口はアハハ、と笑った。
それがどういう意味の笑いなのかはわからないけど、栄口が嬉しそうだから、あえて気にしないことにした。
栄口は私からカバンをヒョイと取り上げ、持ってあげるよ、と言う。
ありがとう、と返したらどういたしまして、と笑顔で言われた。
栄口は、優しい。
私は栄口の彼女で本当に幸せだと思う。
「、後ろ、乗りなよ。」
「え、嫌だなぁ。」
だって、そしたら早く家に着いちゃうよ、とは言わなかった。
だって、なんだか照れくさい。
すると、栄口は頭に?マークを浮かべて、なんで?と聞いて来た。
「あ、もしかして体重とか気にしてる?」
なんとも的外れなことを言って来た栄口を睨むと、あ、違うんだ…、と苦笑いをされた。
確かに、最近ちょっと体重が気になり始めたけどさ!だけどそれでも、2人乗りを拒むほどではない。
…このまま言わなかったら、変に誤解をされそうだな、と私は溜息ついて栄口を見上げた。
「そうじゃなくてね、自転車だと早く家に着いちゃう。」
「え?でも、時間遅いし、早く家に着いたほうがいいんじゃない?」
……全然わかってない!
心の中で小さく溜息をついて、私はもういい、と栄口を放って歩調を速めた。
すると栄口は、え、待って、と小走りで私の後をついてくる。
栄口の靴の音と一緒に、自転車のタイヤがカラカラと鳴る音が聞こえてきた。
「ねぇ、、何怒ってるの?」
「……」
無視だ、無視。乙女心のわかってない彼氏なんて、無視!
私は栄口のほうも見ずにツーンと前を見たまま歩き続ける。
カラカラカラ、タイヤの音がすぐとなりにあった。
栄口はもう私に追いついて、ちゃっかり隣を歩いている。
「、ねぇ、」
「……」
「そんなに速く歩いたら、早く家に着いちゃうよ?」
「…!!」
私は栄口の言葉に眉間に皺を寄せ立ち止まった。
栄口を見れば、それはもう綺麗に笑っている。
栄口の笑顔は、綺麗だと最近思う。
しかしそれは、天使の微笑み、といった感じの笑顔ではない。
むしろ、悪戯に成功した子供が見せるような、無邪気な笑顔と、
策士が敵を策に陥れた時に見せるような、真っ黒な笑顔を足して2で割ったような感じ。
「もしかして栄口、わかってた?」
「さぁ、どうだろうね。」
笑ってはぐらかした栄口。栄口はたまにこうやって、人で遊ぶクセがある。
それは、あまりよろしくない(いつも遊ばれる私にしてみたら、とてもよろしくない)。
私は不貞腐れて、栄口のバーカ、と小さく呟いた。すると、栄口はアハハと笑う。
「ほら、、ゆっくり歩こっか。」
「………」
「拗ねないでね。」
栄口はそう言って、自転車を止める。
何事かと思って私も止まり栄口を見れば、そのまま音を立ててキスをされた。
栄口はずるい。
私がこうやってキスをされると何も言い返せなくなるのをわかってるんだ。
栄口は笑顔だった。私はそんな栄口の隣を無言のまま歩く。
私はきっと一生栄口に勝てることなく、こうしてはぐらかされて生きていくんだ。
あ、でも一生ってことは、一生傍にいることが前提だ。…そうだったらいいな。
そう考えてたらもうどうでもよくなってきて、一生傍にいれることを想像したら、
むしろ幸せで嬉しくなってきて、そのまま、えへへ、と笑って栄口の制服の裾を掴んでた。
「どうしたの?」
栄口は優しく私に聞く。
「なんか、幸せ。」
小さく答えたら、そっか、よかった、と優しく返された。
やっぱり栄口は優しい。
すごく、好き。
ずっとあなたに恋してる
(ずっと一緒にいれたらいいな、そう言ったら栄口はキスをくれた)