「え…えへ!来ちゃった!」
笑顔でそう言うと笹塚さんはものすごーく呆れた顔で私を見下ろした。
学校からそのまま笹塚さんの家に来たから、こうしてドアの前で座ること6時間とちょっと。
今日も残業だったのか、笹塚さんは疲れてるようだ。
「…どうしたの、今日は。」
「えー…と、家出しちゃいました!てことで泊めてください!」
あくまでも笑顔で言うと、笹塚さんは一瞬固まって。
それから少し長い溜息をついて仕方なさそうにポケットから家の鍵を取りドアを開けた。
私は立ち上がって当たり前のように笹塚さんの後に続いて家の中に入る。
実は、こうして笹塚さんの家に家出して転がり込むのは初めてじゃない。
たしか、三週間ぐらい前に5日ほどお世話になった…(え、えへ!)
「で、今度の原因は何?」
「んー、ちょっとした意見の食い違い。進路なんて私が決めれば良くない?」
「ふーん…」
力強く言った私とは裏腹に、笹塚さんはあまり興味なさそうだった(自分で聞いたくせに!)
長く息をついた後、背広を脱いでソファに投げネクタイを緩めた。
私はそんな笹塚さんの背広を手にとってソファに座る。
「…うわっ、笹塚さんの背広タバコのにおいだ!」
「何でそうやって何でもにおいかぐの…」
「えー、癖?でも、すぐにわかるってくらい染み付いてるんだから、笹塚さん、吸いすぎ!」
「…まぁそうかもな。あ、風呂はいってきたら?」
あ…話をそらしたな!とか思ったけどあんまり気にせずに笹塚さんの言うとおりにすることにした。
テテテッと走って風呂場へ向かう。
シャワーだけでいいかな?と考えつつお風呂場をのぞいたら、女物のシャンプーとトリートメントがおいてあるのに気付いた。
「…あ、あれ?前に泊まったときに置いてっちゃったやつだ。」
捨てないでいてくれたんだ…と思ったら嬉しくなって。
たぶんリビングで焼酎を飲んでいるであろう笹塚さんに抱きつきたくなった。
「いい気分だったー!」
ホクホクとあったまった体にでかぶかな笹塚さんのシャツをまとってリビングに戻った。
キョロキョロとあたりを見渡して笹塚さんを探したら、ソファに座ってるのが見える。
テッテッと走っていって笹塚さん!と元気よく話し掛けたけど、返事はなくて。
「…寝て、る?」
笹塚さんが…寝てた(うへ!寝顔見ちゃった!)
すこしびっくりしつつ、その顔を観察してみる。
いつも無気力そうだけど、寝てるときは凛としてるんだなぁ、と感心した。
けど、ここでこのまま寝ていたら、きっと笹塚さん、風邪ひいちゃう!
「笹塚さーん!ここで寝てたら風邪ひいちゃうよー?」
笹塚さんの肩をゆさゆさと揺らす。
少しして、笹塚さんは気だるそうに目を開けた。
「あ…悪い。」
「うん?笹塚さん、疲れてるなら寝るべきだよ!」
「そうだなー、あー。」
「さっ、ベッド行こう?」
私がそう言うと笹塚さんは無言でベッドに向かう。
寝室にあるシングルサイズのベッドに入った笹塚さんを私は見つめた。
「…ねぇ笹塚さん。一緒に寝てもいい?」
「別にだめなわけないけど。何、前は何も言わないで勝手に入ってきてたよね。」
「だって笹塚さん疲れてるでしょ?一緒に寝たら邪魔にならない?」
「ならない…でしょ、それぐらいなら。」
笹塚さんはそう言って笑う。
私はそんな笹塚さんの隣に入った。
笹塚さんの体温がすごく近くに感じれて、正直心臓がやばい。
それでも笹塚さんの暖かさに安堵していた。
「じゃ、おやすみ。」
「おやすみなさい。」
笹塚さんにそう返して、私は瞳を閉じる。
笹塚さんのそばにいると、多分私の細胞全部が安心しちゃうんだ。
襲ってくる猛烈な眠気に逆らう気すら起こらなかった。
そのうち、笹塚さんの腕の中に抱きしめられ私は本格的に眠りに移る。
きっと明日の朝はとても幸せな気分で目覚めるんだろう。
想像したら、ものすごく幸せで。
私は夢の中に落ちていった。
愛しさはレント
(じわりじわり押し寄せてくるあなたへの想い)