私が幸せじゃないのはいつものこと。
きっと私は前世ですごい罪を犯して神様に呪われてるんだ、そうだそうに決まってる。
はじめに気づいたのは小学校のころ。
先生に『幸せなら手をたたこう!』と歌いながら言われて、幸せってなぁにと思った。
先生に、あぁ幸せ!って思ったことないの?と言われて、小学生ながらに国語辞書で幸せっていう言葉を調べた私。
“幸運に恵まれて、心が満ち足りていること。幸福。”なんて幼心にまったく理解できなかった。
心が満ち足りたことなんて、経験したことないから、私は幸せじゃないんだってはじめて自覚した。
最近もそうだ、心が満ち足りているなんてうそでも言えない。
もちろん友達だっているし、不幸な生い立ちってわけでもない。
不幸ってわけじゃないけど、幸せでもない。
そんな私は、桐青高校2年生、。
「…はぁ。」
「幸せが逃げるって誰か言ってたよな、溜息って。」
私の溜息にすぐにそう呟いたクラスメイト、高瀬準太。
この前行われた席替えにより隣同士になった私と高瀬はなんだかんだでよくしゃべる。
高瀬は野球部のエースピッチャーで、モテモテ。
きっと彼は幸せなんだろうなぁって思いつつ、妬みつつ、羨ましがりつつ、今日も高瀬と何気なく会話だ。
「幸せなんて、逃げる前に無いから安心して。」
「…寂しい奴のセリフ。」
私の言葉に高瀬は少し黙ってからそう呟いた。
寂しい奴?別に寂しくなんか無いぞオイ。
私は高瀬をちょっと睨んだ後机に突っ伏した。
鼻水をずびっとすする。
高瀬は次の授業の数学で当たるかもしれないから宿題で出された問題をシャーペンでスラスラと解いていく。
だけど横目で見てみれば、答えは間違ってるね、恥をかくぞ。
「高瀬、数学苦手だよね。」
「別に苦手じゃないけど、なんで?」
「えー…、問1〜問5までの間で、合ってるのはたったの1問だ。やったね!」
明るく言ってあげると高瀬はバッとノートを見た。
あ、どこが間違ってるのかわかってないんだ、馬鹿だなぁ。
私はそんな高瀬を見てクスクスと笑い、問題を指差した。
「ここが違う。」
「え…マジで?」
高瀬は私の指差した問題を見て、何か気づいたのか消しゴムで大々的に消していった。
そしてまたスラスラと問題を解いていく。
今度は間違っていないようだから私は安心しつつ鼻水をズビッとすすった。
すると高瀬が問題を解き終わったらしくシャーペンを机にコトンと置いた。
窓の外に見える空が妙にまぶしい。
「そーいやぁさ、さっきのセリフ、どういう意味?」
「さっきの?」
「幸せなんて無いって。」
「あぁ、簡単簡単。」
私の言葉に高瀬は首をかしげた。
あぁその動作は高校二年生としてはなんともまぁかわいらしいもので、なんだか笑える。
私は笑ったまま高瀬に答える。
「幸せって感じたことが無いからね、幸せなんて逃げはしないよ。」
私の言葉に高瀬は少し目を丸くする。
私はそんな高瀬を面白く思い眺めていたが、高瀬が私をまじまじと見ていたもんだから少々気まずくなって高瀬から目をそらした。
すると、高瀬におもいきり肩をつかまれる。
「幸せって感じたこと無いって、1度も?」
「うん。なんでかねー。不幸って思うわけでもないのに。」
私が笑いながら言うと、高瀬はなんだか微妙な顔をした。
そんな高瀬の表情がなんとも言えなかったから、私は目を丸くする。
ずびっと鼻水をすすれば、あ、と高瀬が声を出した。
「じゃあさ、俺と幸せになってみませんか?」
「……はい?」
思いもよらない高瀬の言葉に、私は目を丸くした。
どう返せばいいのかわからず、そのまま目をぱちぱちとするだけだ。
私のそんな様子に気づいたのか、あ、ごめん!と高瀬が謝る。
何がごめんなんだろう、さらにわからない。
「高瀬、なにが?」
「え…いきなり告白とか困るよな。」
「…こ、告白?!告白されてるの私!」
「え、気づいてない?」
ひぇ!と肩が震えて頬が一気に沸点を越す。
そんな私を見て高瀬が噴出したけれど、私はそれどころじゃない。
私は高瀬の顔を見てそしてまた赤くなりあたふたとする。
するとそんな私が高瀬のツボにはまったらしく、肩を震わせて高瀬が笑った。
「ちょ…高瀬!」
「だって…む、無理!」
私はそんな高瀬君に真っ赤になりながら怒るが、高瀬は耳まで真っ赤になって笑っていた。
そのうち笑いが止まらなくなっていてむせていたけど私は背中をべしんとたたいただけだ、誰が助けてあげるか。
「あー、笑った。で、続きな。」
「あ、うん?」
「ほら、よく人を好きになったら幸せって言うじゃん。」
「そうなの?」
「そうなの。んで、俺、好きだし。ちょうどいいじゃん?」
「…そんな簡単に?!」
「…駄目?俺、がはじめて幸せになれるなら俺とがいい。」
すごく真顔で言われて、思わず照れた。
赤面してそれから高瀬をじっと見詰める。
高瀬の顔を見てみたら、心臓がとても早く鳴ってドキンドキンと胸が痛い。
「幸せになりませんか、俺と。」
「…うん。」
「マジで?」
「私、幸せになるなら、高瀬とがいいかもしれない。」
思わず笑ってそう言うと、高瀬がよっしゃ!とガッツポーズをした。
そしたら胸がいっぱいいっぱいになって、嬉しくなって。
これがもしかして、心が満たされるって言うのかな、って思ったら、えへへと笑みがこぼれてきた。
幸せの作り方
(あたしのしあわせはあなたが持ってる)