野球一筋の私のだーい好きな彼氏には、最近新しい趣味が出来たみたいです。
「哲、何やってるの?」
「将棋だ。」
「将棋?」
久々に遊びに行った哲の部屋で来る途中に買ってきたファッション誌を見るのに飽きた私は、木の塊(将棋の盤)に向かって考え
込んでいる哲にかまって貰おうと思い聞いた。哲の答えに私は首をかしげ、四つんばいになって哲の横から哲の顔を覗き込む。あ、
確かに将棋だ。あごに手を当てて何かを考え込んでいる哲を見て、私は聞いた。
「楽しい?」
「あぁ。」
「じゃあ、私もやる。」
「できるのか?」
「小学校のときね、流行ったんだよ。囲碁と将棋。だから、一応は出来るよ。」
私がそう言うと、哲は将棋の駒を綺麗に並べなおす。哲の向かいに座って私も駒を並べた。ペコリ、と哲は頭を下げお願いしますと
礼をした。…え、礼するの?けっこう本格的にやってるのかな、と私は戸惑いながらも哲のまねをした。パチン、と駒が盤に当たる音
だけが部屋に響く。私は昔の記憶を手繰り寄せてどの駒はどう動かせるのかを思い出し、考えながら打っていった。
しばらくして、哲の手が止まった。あごに手を当て、考え始める。
「……」
「…?どうしたの?」
「いや、なかなかできるな、と思ってな。」
「え?私、すごく弱かったよ?」
「そんなことはない。」
哲は私にそう答えて、パチン、と飛車を動かした。…もしかして、哲って将棋、弱いの?私はちらり、と哲を見る。真剣な瞳で盤の
上の駒を見据える哲。やっぱり強そう…と私は考えなおし、パチン、と歩を動かした。パチン、パチン、パチン、とどんどん打って
いくと、私の考えは間違っていなかったことがわかってきた。素人の私でも絶対に打たないようなところに打ってくる。哲が将棋弱
いなんて、ちょっと意外だ。なんかちょっとかわいいかも…、とほほえましく思えてきてだんだんと私の口元には笑みが浮かぶ。
…にやけちゃだめだ、そう思っても口元は元に戻ってくれない。
「王手!」
私が元気よく言えば、哲の動きが止まる。
「…哲?」
「強いな。」
うかがうように哲を見れば、哲はムッと考え込んでいた。しばらくしてパチン、とまた打ってきたので私も打ち返す。また、王手、と
言って哲を見れば、哲は悔しそうな顔をしていた。私はそんな哲が可愛く思えて、何度も王手を繰り返す。
「あ、詰みになっちゃった。」
最終的に私が言った言葉で、哲は投了した。
「…強いな。」
「んー、私、本当にすごく弱いんだよ。」
「いや、強い。もう一度やるぞ。」
哲はそう言ってまた駒を綺麗に並べなおす。私は悔しそうな哲がまた見たくて、その勝負に応じた。
可愛い貴方と愛しい時間を
(野球は一緒に出来ないけど、将棋なら一緒に出来るよ。)