小さいころ、妹が一生懸命組み立てた積み木のお城を崩してしまいたくなる衝動に駆られた。誰かが努力して築き上げた何かを跡形もなくなるくらいぐちゃぐちゃに壊してしまいたい。私はそういった、人から言わせたら少し『狂っている』感情を昔から持ち合わせていた。
「…それで、何でそれを俺に打ち明けるわけ?」
私の言葉を聞いた御幸はめんどくさそうな表情で私を見据えた。先月の席替えで私の後ろの席になった御幸。そういえば1年生のときも同じクラスだった。あの頃から私の中での御幸のイメージは『うさんくさい笑みの人』だった。笑顔なのに、どこか笑っていないような。目の前を見てるはずなのに、本当はどこか遠いところを見ているような。そんな人。前後の席になって、それなりに話すようになって、私のそのイメージはいよいよ現実味の帯びたものとなっていた。今まではなんとなくだったモノが、確信を得たものに変わっていく。私は自分の中での御幸のイメージがそう変化していくのを感じ取っていた。
「だって、御幸ならわかってくれるかと思って。」
私はそう言って、御幸を見つめる。御幸は苦笑いを浮かべたが、その眼鏡の奥の瞳は笑っていない。それがまた、私の感情を掻き立てる。妹が、私のあの感情は『破壊願望』だ、と言ったことがある。つまり今の私の心の中に渦巻く感情は、御幸へ対する破壊願望なのだろうか。少し違う気もしたが、それに近い気もした。私は、ねぇ、と甘えた声で御幸を呼ぶ。
「私ね、御幸をぐちゃぐちゃに崩してしまいたい。」
私の言葉に、一瞬だけ御幸の表情が崩れた。その瞬間、私の内側で恍惚にも似た感情がブワッと湧き上がった。……あぁ、なんて快感なのだろう。もっと、もっともっともっと、御幸自身が作り上げた『御幸』を崩し去りたい。私が満足げに笑っているのに気付いたのか、御幸はすぐに余裕の笑みを浮かべてしまった。…つまらない。もっと見ていたかった。
「やれるもんならやればいいんじゃねぇ?」
挑戦的な笑みで、御幸は私に言った。私もそれに挑戦的な笑みで応える。
「やってやるわ。……ねぇ、御幸。付き合おっか。」
これが、私と御幸のハジマリだ。他の人から見たら少し異常な、私と御幸の恋愛劇の、ハジマリ。
つみきくずし
(わたしと御幸の、つみきくずし)