久しぶりに『彼女』という存在が出来た。だけど俺の『彼女』は、普通の『彼女』というキーワードから連想できるような甘い存在ではない。彼女曰く、『彼女』というものは俺自信が作り出した俺を崩し去る存在らしい。あれ、これで合ってんのか?彼女が俺に説明してくれたときはもっとうまい言葉があったような気がする。なんだ?俺は人に説明するとかそういうことは結構得意だったはずだけど。たぶんそれほどまでに彼女が言った『彼女』という存在の定義が俺の理解を超えたものだったのだ。実際俺自身、よくあの説明が理解できたと思う。彼女は「中世の哲学者か?」と俺が疑ってしまうほど淡々と難しい言葉やらを使い俺に色々と説明してくれた。


「ヒャハハッ、お前、それよくOKしたな!」


とりあえずチームメイトの倉持にコトのあらすじを説明したら、案の定笑われた。本来こういうときは怒るものなのかもしれないが、俺自身もよくOKしたなと思ってしまっているので怒るに怒れない。ウケる!と腹を抱えて笑う倉持のせいで、休憩中だった他の一軍メンバー達も俺らのところへやって来てしまった。これは誤算だ。哲さんが、倉持はどうしたんだ?と俺に聞いてきた。俺は「ワライダケ食べたらしいッスよ。」と適当なことを言う。すると、哲さんが「…そうだったのか。」と納得してしまうもんだから、俺はブッと笑い出しそうになる。しかしすぐに純さんが「んなわけねーだろ、ボケ!」と俺にチョップをかましてきたから(ドメスティックバイオレンスよー、とちゃらけておいた)、すぐに嘘だとばれてしまった。


「で、実際倉持は何で笑ってるわけ?」


亮介さんが笑顔のまま俺と倉持に聞いてきた。笑顔の癖になんか怖ぇんだよなー、亮介さん。彼女は亮介さんみたいな人を崩したいとは思わないのだろうか。俺なんかより、崩し甲斐あると思うんだけどなぁ…とぼんやりと考えていたら倉持が笑いながらも状況を説明し始めた。


「いや、御幸の新しい彼女っつーのが変わった女子で…その話聞いてたら笑えてきたんッスよ。」


倉持の言葉に、いち早く反応したのは沢村だった。えー!と驚いたような声を上げた後、マジで?!と続ける。


「うっわ、こんなヤツの彼女になるなんて酷じゃねぇの?!」
「沢村、いい度胸だなー。つかタメ口やめろ。俺、先輩だっつーの。それに別に俺が告って付き合ってもらってるってわけじゃなんだから、酷ってわけないだろ。」
「なんだ、御幸が告白されたのか?」


沢村の言葉に言い返すとクリス先輩が俺に尋ねてきた。肯定すれば、沢村が「モノ好きもいるんだ…」と失礼なことを言ってきた。本気でこいつは俺のことを先輩と思ってるのだろうか、と頭にきた。


「しかし、御幸が付き合うことを承諾したのなら、変わっていてもいいところはあるのだろう?」


哲さんが俺に尋ねてくる。俺は一瞬彼女を思い浮かべた後、あー…と言葉をにごらせた。


「いいとこってあるんッスかね…」
「俺らに聞くんじゃねぇよ!」


聞き返せば純さんに怒鳴られる。…いや、でもマジで彼女のいいところというのが思いつかない。うんうん悩んでいたら、痺れをきたした沢村が、じゃあなんでOKしたんだよ!と聞いてくる。なんでって言われても、わかんねぇ。面白そうだから、という理由が正しいような気もしたがそれでは何かが足りない気もした。彼女に『破壊願望』があるように俺にも『破壊されたい願望』があるのかもしれない(俺、意外とネーミングセンスないな)。けれどそれをうまく表現できるほど、俺はボキャブラリィに富んではいない。


「いや、なんっつーか、面白そうだったから?」


だから、だいぶ省いてそうとだけ言った。沢村がやっっぱ最低だと騒いでいたが、あまり気にしなかった。彼女のように相手を納得させる説明は、俺には出来るわけもない。なら、難しさは抜きで、簡単に簡潔に言うべきだろうと思ったのだ。


「ところで御幸、その彼女の名前、なんていうの?」
「…あ、そういや名前…なんだろ。」







難しさは抜きでいい
(ただ、予感がしたから)