Glorious Days
(黒髪・たれ目・同じ苗字。ムカつく友達。)
「あーマジありえない!」
私はそう言って、ガタンと机を蹴飛ばした。
すると、私の隣(つまり隆也の席なんだけど)に座っていたアイコがビクンと肩を震わせる。
「な、どうしたの、。」
「私、隆也と友達やってく自信なくなってきた。」
「なに…今度は何あったのー。」
苛々としてる私とは裏腹に、アイコは楽しそうに聞く。
私はそんなアイコをちょこっと睨みながら、ハァと溜息をついた。
隆也と俗に言うお友達とやらになってからもう2週間。
友達になる前と代わったことといえば私と隆也がお互いに名前で呼び合うようになっただけで。
あぁはいそうですね私に忍耐力が足りないのかもしれませんが。
あいっかわらずの、犬猿の仲。
「だってアイツ、ありえないんだもん。」
ぶぅと頬を膨らまして言えば、アイコはニヤニヤ笑って私を見つめてる。
何そのいやらしい笑みは…とアイコを見たら、頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。
「なんかさ、私、と阿部君みたいな関係、憧れちゃうかもしれない。」
「何が何で何をもって憧れるの私と隆也に。」
私はそう言って溜息をついた。
こんな犬猿の仲にどうしたら憧れるんだ、と呟いてまた溜息。
「だって、何でも言いたいこと言い合ってさー。」
「そうか?」
「うん。私も…そうなりたいなぁ。」
アイコはそう言って、苦笑した。
どうしたの?と聞けば、なんでもないといつもの笑み。
今日のアイコは変だ、と呟いて私は机に突っ伏す。
アイコ、こと佐々木アイコはこの学校で出来た初めての女友達。
言いたいことはすっぱり言う性格のアイコは、かなり話しやすくてすぐに馴染めた。
アイコは隆也と同じ野球部の水谷くんと同中で、それもあって私とアイコは水谷君や隆也ともう一人、野球部の花井くんと一緒に行動してる。
つまり、私と隆也はお弁当も一緒だ。
…そう、私が今機嫌最悪なのもお弁当のせいなんだ。
今日はアイコと花井くんが委員会の用事があってお弁当は私と隆也と水谷くんだけだった。
いつも通り私と隆也の机をくっつけて、かばんの中からパンを取り出した時に隆也が私を見た。
「…お前またパンかよ。」
「は、悪い?」
私は隆也の言葉になぜか腹が立って、呟くようにそう返した。
すると、隆也はあろうことか私のパンを取って、ふーんとそれを見る。
「これ、コロッケパンじゃん。俺、好きだし。」
「だから?隆也が好きだからって関係ないじゃん。返して…よ!」
バッとパンを取り返そうと手を伸ばしたら、隆也はヒョイとそれを避ける。
私はもちろんパンを取りそこなったわけで。
「返せー!」
「やだ。俺、これ食いたいから。」
「意味わからん!私のお昼ご飯だよそれ!」
「…俺の弁当と交換な。」
「はぁ?!」
「なんだよ。何か不満?」
「不満に決まってるでしょ?!なんで…!」
「俺がそうしたいから。」
隆也はシレッと言って、コロッケパンを袋から出してパクリとかぶりついた。
その瞬間私は自分の眉間にしわがよるのがわかった。
だって、ありえんでしょう?!
普通、人のお昼ご飯を無理やり奪うか?!
私はものすごくすばやく隆也のお弁当を食べてお弁当箱をつき返した。
「どーも!」
嫌味ったらしく言ったら、隆也は私を見て笑う。
その笑いの理由がわからなくて更にむかついて私はその場から立ち去ったんだ。
そして、今。
放課後、隆也が部活に行ったのを見計らって教室に戻ってきたのだ。
つまり、午後の授業はおさぼりさ!
「へー、私がいない間にそんなことがあったんだ。」
ご愁傷様、と笑いながら言うアイコ。
私はそんなアイコを見つめて、溜息をついた。
「ね、羨ましくないでしょ!」
「いや…やっぱ羨ましいわ。」
「はぁ?!何で!」
「だって、阿部くんさ、きっとのこと心配してそういうことしたんだよ。」
たぶんね、と言ったアイコの言葉に私が目を丸くしたのは当たり前なことで。
何を何でそうしたらそう思えるの?!とアイコをまじまじと見れば、フフッとアイコは笑う。
「私も気になってたんだけど、ってさいつもお昼パンだけじゃんね?」
「うん。そうだね。」
「しかも、朝ごはんはいつも抜きだってこの前言ってたよね?」
「あー、そうだね。」
「しかもさ、晩御飯もほとんど外食でしょう?」
「まぁね。」
「…栄養偏りすぎでしょ。体いつか壊すよ。」
「えええ?」
「私、阿部くんはのことすごく考えてると思う。」
フフフと笑って言うアイコの言葉が信じられなくて私は首をかしげた。
隆也が私を心配?
いや、あれはどう考えてもコロッケパンが欲しかったからだろう。
そりゃあ隆也のお弁当、野菜とかいっぱいだったしおいしかったけどさぁ。
けど、アイコが嘘ついてるように思えないし、アイコってこういうのに関しては私とは比べようも無いくらい頭がいいから。
「…そうなのかぁ?」
「うん、きっとそう。私、自信あるよ。」
「……でも、なんで?」
私が信じられない最大の原因がそこだった。
だって、隆也といえば意地悪だし人の睡眠の邪魔ばっかりするしたれ目だし。
私が本気で考え込むと、アイコは私を凝視した。
「え、気付いてないの?」
「なにが?」
「…あんたって頭いいけど本当にこっち方面では頭悪いのね。」
「な…なにおぅ!?私だってわかるし!」
「ふーん、言ってみなさいよ。」
「………友達だから。」
ボソッとうつむいて答えると、アイコはブフッと噴出した。
ひどっ!と顔をあげるとアイコは私の頭をヨシヨシと撫でた。
絶対子ども扱いされてる!
「そうだね、友達だもんねー。」
「ちょっとアイコ、馬鹿にしてない?!」
「してないしてない。」
アイコは笑って、私を見る。
それから、お礼ちゃんと言っときなさいよ?と言うのだった。
コロッケパンの秘密
(お礼、言わなきゃ駄目なの?あたしのコロッケパンを奪った人に。)