Glorious Days
(黒髪・たれ目・同じ苗字。ムカつく友達。)






携帯がなった。
誰かと思ったら、クラスメイトの水谷文貴クンだった。
…朝っぱらから何よ。




「うざー」


最近ろくなことがない。
私は自分の手元にあるお弁当箱を見て溜息をついた。



3連休初日の今日の早朝にかかってきたクラスメイトの水谷文貴クンからのお電話によると。
≪明後日野球部試合あるからさ、佐々木さん連れて応援来ない?≫
もちろん断ったけどさ。


それをアイコにそれとなくメールで話したら。
≪え、行きたいんだけど私!≫
…世の中私の敵だらけかもしれない(ちょっと大げさかな)
そんなこんなで私まで応援に行く羽目になって。
しかもなぜか差し入れって事で何か作って来いとアイコに言われまして。
なんで!何で私が!て講義したけど。
無駄、無駄無駄無駄無駄無駄でした。



と、いうわけで。
私は今明後日のためにお料理中ですわよアハハハハ。
もちろん料理なんて得意なわけないし(むしろ苦手さ!)
ていうか、めったにつくらないから(いつも外食で済ませるしさ)。
インターネットでレシピなるものを調べて、いざ!
作るのはなんとレモンの蜂蜜漬け。
運動部への差し入れにはもってこい!
しかも残った汁は水で薄めると夏ばて予防にもなるって代物だってインターネットでは言ってるし。
今は5月とはいえ25℃を越える炎天下の日。
これはもう明後日のためにあるようなもんでしょ!


お弁当箱にレモン(皮ごとぶった切り!)入れて蜂蜜ドバドバ入れてホイ完成!
どうだ完璧だろう!と一人でニマニマ笑って冷蔵庫に入れた。
インターネット情報によれば、2日後には食べれるらしいから試合にはぴったりだろう。
自分天才だな!と私は冷蔵庫の中のレモンの蜂蜜漬けを何度も見る。
そのたびに開いたり閉じたりする冷蔵庫の扉が、パタンパタンと音を立てた。
…なんだか、レモンの蜂蜜漬けが輝いて見えた。
もしかして私、料理の天才だったりして…






そんなこんなで試合当日。


結局昨日も何度も蜂蜜漬けを眺めていた。
そういえば初めてきちんとした料理(といってもただレモン切って蜂蜜かけただけ)を作ったかもしれない。
私はレモンの蜂蜜漬けを小さいタッパに入れて(だって、全部持っていくなんてもったいない)、汁を水で溶かした。
氷を入れたそれを大き目の水筒に入れてさぁ準備万端!
着替えて日焼け止め塗って、ちょっとだけメイクして。
あとはアイコが迎えにくるだけだ、とイスに座った瞬間インターホンが鳴った。


「おー、おはよう!アイコ!」
「おはよう。え、ご機嫌だね。てっきり不貞腐れてるかと思ってたのに。」
「んー、不貞腐れてる?なんで?」
「だって、行きたくも無い試合に付き合わされて…」
「まぁ、最初はそうだったんだけど、ていうか聞いて!私、料理したよ!」


えへえへと笑って言えば、アイコは一瞬目を丸くして、それから笑ってよくやったー!と言ってくれた。
それからレモンの蜂蜜漬けの入ったタッパと水で溶かした汁を入った水筒を入れた紙袋を持って家を出る。
今日は西浦の野球部グランドでの試合らしい。


「アイコは何作ったの?」
「えーっと……、おにぎり。は?」
「レモンの蜂蜜漬け!」


元気良く答えれば、アイコはおぉ!と声をあげる。
やっぱり差し入れといえばそれを思い浮かべるよねーとアイコは笑顔で言った。


「私、自分で思ったんだけど、きっと料理の天才だよ!」
「おおおー!じゃあ期待しちゃっていいのかな?」
「いいよいいよ!もう全然期待しちゃってくれていいんだよ!」
「へぇ…。」
「でも、初めて料理ってもんをしたけど、意外と楽しいんだね。」
「…初めて?」
「うん、初めて。」


私の言葉にヒクリとアイコの笑顔が凍る。
どうかした?と聞いたらなんでもないってごまかされたけど。

そんな会話をしてるうちにグランドに到着した。


「おーい水谷!」


休憩中だったらしく、ベンチ付近でのんきにしゃべってた水谷が見えて、私は水谷を呼ぶ。
すると、水谷が私とアイコに気付いて走ってこっちにやってきた。


「本当に来たんだ!」
「…なにそれ、来ちゃ悪いんですかー。」


私は嫌味ったらしくそう言って水谷のおでこをペシッとはたく。
そして水谷の前に紙袋(レモンの蜂蜜漬けと水筒入り)をズズイと出す。
そしたら水谷は、これ何?と言いたいような顔で私を見てきた。


「フハハハ!聞いて驚け!様特製・レモンの蜂…以下略だ!」
「え、略した部分気になるんですけど!」
「気にしなくていいよ。」


私がそう言うと、エー!と水谷は声をあげる。
すると、アイコも水谷に袋を渡す。


「おにぎり作ってきたよ。」
「うわー、佐々木さんありがとう!」
「…ちょっと水谷、私にお礼は?!」
「えー、ありがとう!」


アイコに礼を言った水谷に怒ったように言えば、水谷は笑顔で答えた。
素直でよろしい、と笑えばアイコも笑った。
アイコはグランドを見渡して、それから水谷を見る。


「ねぇ、花井は?」
「ベンチで休憩中。ていうか、やべ!俺、みんなに二人が来るって言ってねぇ!」


アイコの言葉に水谷は答える。
そして、思い出したようにベンチに戻ってベンチの中で何か言うと、ベンチからぞろぞろと団体がやってきた。
その中には阿部と花井くんも含まれていて、私は2人に手を振る。


「なんで、が…」
「水谷に招待されたんだよ。喜べ隆也!私は差し入れのためにはじめて料理を作ったぞ!」
「初めてかよ。」
「おーよ!」


笑顔で言うと隆也はものすごく嫌な顔をして、まずそう、と呟いた。
ボソッとだけど、聞こえたぞ!


「んなっ、なんだとぅ?!今なんて言った?!」
「別に、まずそうって言っただけ。」
「ムキィィィィー!もういい!隆也は食べるの禁止!」
「は、別に食べたいわけじゃねぇし。」
「さらにムキィィィィー!!!!」

私が大声をあげると、周りがドッと笑い出す。
笑い事じゃないよ?!と周りを見れば、さらに笑われた。


「総代だった阿部さんだよね?」


やさしい顔の人(チラッと隆也を見たらそっけなく「栄口、セカンド、」と紹介された)栄口君が私を見てそう言った。
私はコクコクと頷いて栄口君にヨロシク、と言う。
すると栄口君もヨロシクと返してくれた(いい人!)。


「なーなー、阿部さんは水谷の彼女?」


続いては田島君(隆也いわく「サード」らしい)がひょっこりと私を見て言う。
私は全否定をしてアハハと笑った。


「あ、あの、差し入れ、た、食べる、か、ら。」


途切れ途切れに三橋君(隆也は「名ピッチャー」って言った)がほっぺを真っ赤にしながら言った。
うん、食べてね!と笑って言ったらさらにほっぺを赤くした三橋君に私は首をかしげた。


「あ、三橋はいつもこんな感じだから、気にしないでいいよ。」


そう言って三橋君をフォローしたのは泉君(隆也が「センターとか」って言ってた。とかって気になる)。
泉君を見た瞬間、グイと腕をひっぱられた。
え?と思って顔をあげれば、隆也が私の腕を掴んでる。


「もう試合始まるから。どっか座っとけ。」


隆也はそう言って、ベンチの中に私を連れてってくれた。
すると、ベンチにはもうアイコがいて(ちなみにアイコの隣には花井君が座ってる)、私はアイコの前に座る。
そしたらすぐ隣に隆也がどかっと座った。

「あれ、隆也、試合始まるんじゃないの?」
「始まるけど、プロテクターつけんだよ。」
「フーン。」


私はプロテクターの意味がわからず、そのままその言葉を流した。
するとみんながベンチに戻ってきて、私とアイコからの差し入れが開かれ始めた。
私のレモンの蜂蜜漬けに水谷が手をつけようとしたとき、水谷の手を隆也がはたく。


「痛っ!」
「水谷、やめとけ。腹壊すぞ。」
「ちょ…、隆也それどういう意味よ!」


手をはたかれた水谷に隆也が言った言葉に私は反応する。
すると、隆也は溜息をついてレモンの蜂蜜漬けを一枚口にした。
手についた蜂蜜を舐めた後、隆也はヘェと驚いたように私を見た。


「普通に上手い。」
「当たり前でしょ?!ていうか、隆也は食べるの禁止なの!」


私がそう言うと隆也は笑ってそうかよ、と言った。
だけど、上手いって言ってくれたから少しだけ嬉しくて。


「で、でも、どうしてもって言うなら、食べていいよ。」


言ったら隆也はまた笑った。








結局私のレモンの蜂蜜漬けは、全部隆也が食べてくれた。















酸っぱさよりも、甘い
(ねぇ、おいしかった?)