Glorious Days
(黒髪・たれ目・同じ苗字。ムカつく友達。)
ザァザァザァ
雨が降り続いて私は溜息をついた。
…雨、雨雨雨雨雨!外は土砂降り、ああなんてツイてない。
「…ありえなーいまじ信じられなーい」
小さくぼやいてまた溜息。
なんで雨が降ってるんだ、クソぅ。
また、溜息。
今日の朝は本当に晴れていて。
私は天気予報なんて見ないでも、今日はずっと晴れさ!なんて思ってたわけですが。
いざ、帰りの時間になってみたら、土砂降り。
冗談でしょ?と外を眺めても何も事態は好転しない。
「ああもう、泣きそうだよ。」
小さくポツリと呟いて、私は窓の外から目をそらした。
すると、私の隣でパンを食べていた隆也が私を見る。
「なに溜息ついてんだよ」
「…かさ、忘れましてね。」
なぜか丁寧に答えつつ、私はまた溜息をついた。
私は机に突っ伏して隆也を見る。
「隆也部活は雨で中止とか?」
「中練。走りこみと筋トレぐらいはやるだろ。」
隆也はそう言って外を見つめる。
野球部のグランドはたぶんグチャグチャなんだろうなー、と私も考えながらまた外を見た。
…心なしか、雨、ひどくなってるような気がするんだけど。
「…いっそ走って帰ろうかな。」
「風邪ひくだけだぞ」
隆也はそう言って手に持っていたパンを全部口の中に押し込んでエナメルバッグを肩にかける。
そして立ち上がって教室から出て行こうとした。
「さ、なんか早く帰らなきゃいけない用事とかあるわけ?」
「無いけどー。」
「じゃあ送ってってやるから、待っとけよ。」
「はい?」
「傘。入れてってやるよ。」
隆也はそう言って教室を出て行った。
タッタッと廊下を走る音が聞こえて、そして遠くなる。
…傘入れてってくれるんだ、ありがたいね。
心の中でそう呟いて隆也にちょっとだけ感謝しつつ、私はまた机に突っ伏す。
湿気で少し水分を含んだのかジメッと冷たい机に頬がついて、私は目を瞑る。
あ、このまま寝ちゃいそう。
そして私は眠りについた。
「、そろそろ起きろ。」
肩を揺られてそう言われ、私は顔をあげた。
まだ閉じていたい瞳を何とかこじ開けて、手の甲でこする。
「んー…寝たい。」
「もう十分寝たろ。」
私の言葉に隆也はため息交じりでそう言って、私の頭をクシャッと撫でた。
そんなことされたのは初めてだったから、ちょっとビックリする。
私は目を丸くして隆也を見上げて、なに?と聞いた。
「別に。」
隆也は短くそう言って、ガタッとイスに座る。
「どうせお前、まだ何も帰る準備してないだろ。」
「あ、うん。」
私は頷いて机の中から教科書を取り出してかばんに詰め込む。
そのまま立ち上がったら、いくか、と隆也も立ち上がる。
頷いて教室を出たら、ひんやりとした廊下の空気が頬を撫でた。
「…湿気、嫌い。」
「初耳。」
「うん、だって今思ったから。」
「なんだそれ…」
呆れたように隆也が言って、溜息をついた。
フ、と隆也が窓の外を見て、あ、と声を漏らす。
「隆也?どうかした?」
「雨、止んでるし。」
「嘘!」
私も窓の外を見たら、確かに雨は止んでいる。
私は溜息をついて、待ち損ーと呟いた。
「あ、隆也もう部活終わったんだよね?」
「あ?あぁ、じゃなきゃここにいないだろ。」
「じゃあさ、折角晴れたんだし寄り道してこっか。」
「どこに。」
「…んー、映画とか?今日たしかカップルデーだよ?」
「……いつカップルになったんだよ。」
私の言葉に隆也は溜息をついて首を振る。
たしかにそうだけど、と言いつつ私は、でも、と続けた。
「バレないって!ていうか私、見たい映画あるの!ね!」
私はニコニコ笑ってそう言う。
だって、1500円が1000円になるんだもん。
こんな機会、みすみす見逃すわけが無い。
「いいじゃんー、暇なんでしょ?」
「……今日だけだからな。」
「やった!隆也大好きー!」
「は?」
私の言葉に隆也が眉間にしわを寄せてマジマジと私を見た。
私はえ?と隆也を見る。
「どうしたの、隆也。」
「…別に。」
隆也は私からフイと視線を逸らして窓の外を見た。
「隆也ー!これ、これ!」
私はそう言って映画館の壁に貼られたポスターを指差した。
私の指の先を見て、隆也がげんなりとした顔でマジで?と溜息をつく。
「お前さぁ…、これは無いだろ。」
「なんでぇ?いいじゃん、見たいんだしさ!」
私が指差したポスターは、韓国映画(もちろん恋愛モノ)。
いかにも嫌そうな隆也に私はそう言って、隆也の腕を引っ張る。
カウンターまで言って、大人二枚!と言うと店員さんが私と隆也を見た。
「カップルさんでいらっしゃいますか?」
「あ、はい!」
安くなる、安くなるぅ!とうきうき気分で返事をすると、店員さんは笑顔で言う。
「では、証明を。」
「……は?」
店員さんの言葉に、?マークを浮かべると、後ろで聞いてるだけだった隆也が溜息をついた。
不意にギュッと隆也に手をつながれて。
「…え?」
ゴツゴツした指が、私の指に絡まる。
男の人の、手。
「これでいいですよね。」
「はい。それではお楽しみください。」
隆也の言葉に店員さんは微笑んで答える。
店員さんが笑顔で渡したチケットを奪うようにとってツカツカと歩き出す。
私は隆也に手を掴まれてる手を見つめながら、隆也に引っ張られるようにカウンターから歩いていった。
「た、隆也?」
恐る恐る隆也の名前を呼ぶと、隆也が気付いたように私の手を離した。
「えっと、さ。なんで手つないだの?」
「証明って、そういうことだし。」
私の言葉に隆也は淡々と答えた。
すこし機嫌が悪いのかもしれない。
「で、でもさ!隆也の指、意外とゴツゴツしてるんだね。」
「は?」
なんとか隆也の機嫌を直そうとして、私は話題を探す。
明るくそう言うと、隆也が眉間にしわを寄せて私を見る。
「繋いだ時にね、思ったんだけど。隆也って男だったんだなーって思った。」
「…俺は最初から男なんだけど。」
不服そうな言葉だったけど、隆也の顔は少しだけ嬉しそうだった。
私は隆也の顔が嬉しそうになったのが何でか嬉しくて、私は隆也の顔を見ながら映画のホールの中に入っていった。
カップルデー
(気付いたのは、小さな変化)