Glorious Days
(黒髪・たれ目・同じ苗字。気になる友達。)






「え、誕生日会?」
「そうそう、だって明日、の誕生日じゃん!」


お弁当の時間、ニマニマと笑ったアイコが提案した、私の誕生日会。
正直、高校生にもなってそんなの開いてもらえるとは思ってもなかった。


「折角土曜日だし…って私と花井で計画してたんだけど、が用事あったら元も子もないし…どうかな?」
「えっと、とくに予定はないけど…」
「よし!じゃあ決まり!明日、の家でやろ!」
「え、でも花井くん部活なんでしょ?」


はりきって手を叩くアイコにそう聞けば、アイコの隣でお弁当を食べてた花井くんが苦笑する。
すると、私の隣でお弁当を食べてた隆也が、私の隣でボソリと呟いた。


「お前、今がテスト週間だって忘れてるだろ。」
「あ…そっか。テスト週間は部活がないんだっけ。」

納得してそう言えば、隆也は溜息をついた。
…なんだよ、馬鹿にしてるわけ?と睨みつけたら、肩をすくめられた。


「そういうこと!ね、いいでしょ?!」
「…かまわないっていうか、むしろ嬉しいけど…、いいの?みんなテスト勉強は?」
「大丈夫!次の日からに教えてもらえばいいんだから!」
「なにそれ…。」
「ま、とりあえず明日、の家でパーティーね!料理とかは私がやるから!」


アイコはそう言ってにっこり笑った。
断る理由が特にあるわけでもなかったから頷いたら、やったぁ!とアイコが両手を挙げる。


「じゃあ決まりね!あ、阿部くん、きちんとへのプレゼント用意しとけよぉ!」
「は?俺、行くとも言ってないんだけど…」
「来ない気なの?!うっわ、薄情ってもんだよ阿部くん、の誕生日だよ?」
「…別に。俺が行く理由ないし。」


隆也はそう言って弁当箱の蓋をパタンと閉じて立ち上がった。
私はそんな隆也を見上げる。


「どこいくの?」
「次、体育だろ。着替えてくる。」


隆也はそう言って、行くぞ、花井、と花井くんを無理やり連れて行ってしまった。
そんな2人を見てアイコはニッと笑う。


「照れてんだねー」
「花井くんが?」
「あーあ、、なんで花井が照れるのよ…阿部くんに同情しちゃうよ私。」
「は!?なに、それ!」
「こっちの話ー。あ、やば、昼休み終わっちゃうよ!私たちも早く着替えなきゃ!」


アイコは話を逸らすかのように弁当箱をしまって体操着が入ってるショップ袋を手に持った。
私はアイコに置いていかれないように急いでお弁当(今日も自分で作ってみた)をしまって立ち上がる。
更衣室へ行く間、ずっと明日のことを考えてた。


誕生日会なんて、いつぶりだろう。










―ピーンポーン


そして、誕生日が来た。
インターホンの音で私はテレビを消して玄関へ向かう。
扉を開けたら、両手いっぱいにスーパー袋を持ったアイコが立っていた。


「うわぁ、アイコ、なにその荷物…食材?」
「そう!なんかいっぱい作りたくって…、あ、よかったらも一緒に作る?」
「いいの?!やったー、作る作る!あ、半分持つよ!」


私はアイコが右手で持っていたスーパー袋をアイコから受け取って、リビングへと向かった。
リビングについて、テーブルにスーパー袋をどさっと置くと、たった数メートルしかない廊下のクセに、息切れしてた。


「…よくこんな荷物持ってこれたね、アイコ。」
のためだよ。」


笑って言うアイコに感謝しつつ、スーパー袋の中身を見てみる。
…お米と海老とアサリ、白身魚、 ムール貝、 ゆでタコ、固形スープ、調理用ワイン、オリーブ油、パプリカ、トマトとか。
とりあえず、いっぱい。


「…お金すごくしなかった?」
「あ、大丈夫!半分以上は家から持ってきたから!」
「え、でもこれ、スーパー袋だよ?」
「あ、これ?入れるものなかったしね!うち、料理店だから大体はそろってんだよ!」
「へー、初耳。」


アイコの言葉に感心しつつ、私は並べられた食材をマジマジと見てみた。
何が出来るのか、想像もつかない。


「ねぇ、これってなにが出来るの?」
「えーっと、パエリア。」
「おぉ!すごい!」
「意外と簡単なんだよ?」


笑って愛用エプロン(バーバパパのだ…可愛いな)をつけたアイコは、台所借りるよ?とキッチンへ入っていった。
手伝うよ!といえば、下準備だけは私がやるから、と追い出されてしまった。
…暇だ。
手持ち無沙汰にキッチンへもう一度入って海老で遊んでいたらピンポーンとインターホンが鳴った。


「あ、花井たちじゃないかな。」


アイコがそう言ったから、私はパタパタと走って行って玄関のドアを開ける。


「どうもー、宅配便でーす。」


…どこが花井くん?
とりあえず書類にサインして荷物を受け取る。
でかいダンボールを両手で何とか持って、リビングまで運んでいった。


「宅配便?」
「うん、誰からだろう…」


キッチンから聞こえてきたアイコの声に答えつつ、差出人を確かめる。
『阿部新次郎』と書かれていた差出人欄を見て、げ、と思わず声がもれる。


「お祖父ちゃんからだ…」
「え、のおじいちゃん?」
「うん。絶対そう…。でも、この字はおじいちゃんじゃない。……秘書に書かせたな。」


ブツブツと呟きながら、ダンボールを開けた。
キッチンから出てきたアイコが後ろからダンボールの中身を覗きみてる。


「うっわー、すごい!」


まず、アイコが歓声をもらした。
ダンボールの中身は、洋服、それと白い封筒。
私は洋服を無視して、封筒の中身を見る。
便箋には見覚えのある字がずらりと並んでいた。
…手紙はお祖父ちゃんの手書きだった。


「なんて書いてあるの?」
「誕生日おめでとう、たまには帰って来い、だってさ。」
「へー!ていうか、すごいねコレ!全部バーバリーじゃん!」
「…おじいちゃんは私が好きなのバーバリーしか知らないから。いつもそればっか。」
「でも、すごいじゃん、こんなにたくさん。」
「…あー、あの人、一応社長だから。」
「え、初耳!」
「うん、初めて言った。けど、そんなえらい人でもないよ。普通の人だって。」
「へー」


私は溜息をついてダンボールの中身を見つめた。
…それでも、身内から誕生日プレゼントなんてもらえるとは思ってなかったからとりあえず嬉しかった。

「そういえば、がいつも学校にはいてきてるスカートもバーバリーだよね。」
「うん、制服みたいだからいいかなって思って。よくわかったね。」
「なんとなくだけどわかったんだよ。」


笑って言ったアイコは再びキッチンへ戻っていく。
鼻歌交じりにお鍋を用意してるアイコを見て、あ、いい奥さんになるんだろうな、と唐突に思った。


ー、手伝う?」
「うん!」


アイコに呼ばれて、私はキッチンへと向かう。
シンクに置かれていた海老と目があったような気がして、すぐに逸らす。
そしたらそれを見ていたアイコが、もう生きてないのに、と笑った。












―ピーンポーン


本日三回目のインターホンが鳴ったのは、パエリアが出来上がってからだ。
私は玄関まで走って行って、ドアを開ける。
するとそこには、花井くんと隆也がいた。


「いらっしゃい!」
「どうも、阿部さん。誕生日おめでとう」
「ありがと、花井くん!」
「アイコもう来てるよな?」
「うん、あ、あがってあがって!」


私はそう言って花井くんと隆也にスリッパを出した。
そしてリビングまで2人を連れて行く。
リビングで待っていたアイコが、遅いぞ花井、と花井くんに呟くように言った。


「お、阿部くんちゃんと来たじゃん。」
「暇だったからな」
「フーン、暇、ねぇ」


アイコは隆也を見ながらニヤニヤと笑う。
隆也が不機嫌そうに舌打ちをして、ソファにドスッと腰をおろした。


「あ、聞いて隆也!今日のお昼ご飯ね、私も作ったんだよ!」
「へー、なに?」
「パエリア!」


隆也の不機嫌をなんとか直そうと必死で話し掛けたら、意外と普通に返してくれた。
即答で答えれば、へー、と隆也は笑う。
ドキッと、心臓が鳴った。
最近隆也の笑顔を見ると、心臓が可笑しい。
私は心臓の異変をあえて無視して、隆也の袖を引っ張って隆也を立たせた。


「見てみて!」
「おい、ちょッ…!」


いきなりのことでビックリしてた隆也をキッチンまで連れてきて、ジャーン!とパエリアの入ったなべの蓋を開ける。


「へー…、頑張ったな」
「でしょ!」


褒めてくれたのが嬉しくて、えへへと笑う。
そしたら、隆也は私の頭をグシャグシャッと撫でた。


「本当、頑張ってたよ、は。死んだ海老と睨めっこして泣きそうになってたもんねー?」
「ちょ、アイコ!余計なこと言わなくていいの!」


アイコの茶々に大声で答えたら、隆也がブッとふきだして笑った。
ちょっと!と抗議をして隆也を睨んだけど、しばらくの間隆也は笑い止んでくれなかった。


「あ、、これ、冷蔵庫に入れておいて?」


アイコがリビングからそう言って花井くんがさっき持ってきたピンクの紙袋を持ってきた。
私はそれを受け取って、中を見る。


「これなに?」

紙袋の中の白い箱を見てそう聞けば、ケーキだよ、と答えられた。
ケーキ?大好き!と笑顔で言えば、隆也が太るぞ、と笑いながら言ってくる。
なにおう!?とまた睨めば、隆也はふいとリビングへ戻っていってしまった。
私もケーキを冷蔵庫に入れてリビングに戻って、ソファに座る。


楽しい誕生日会の始まりだ。
















宴の始まり
(祝ってくれることが嬉しいよ)