Glorious Days
(黒髪・たれ目・同じ苗字。私の好きな人。)
「、今日放課後室長の仕事があるってよ。」
昼放課、隆也がそう言って私の腕を掴んだ。
あの日からもう1週間、ずっと隆也との接触を拒んでいた私(といっても隣の席だからそうも徹底されてなかったけど)にしてみたら、隆也に触れられるというのはとてつもなく久しぶりで、思わず掴まれた手が解けてしまうんじゃないかとさえ思えてた。
私はその手を思わず振り解き、それから何もなかったように作り笑いを浮かべる。
「わかった。私がやっとくから、阿部くんは部活へ行ってね。」
わざと≪阿部くん≫に強調をつけ、なおも笑う。
すると隆也はとても不愉快そうな顔で私を見てきた。
「いい、今日はミーティングだし、俺もやる。2人でやれば早く終わるし。」
「え、悪いよ。阿部くんはいつも部活で疲れてるんだし、早く帰ったらいいんじゃない?」
「…やるっつったらやるんだよ。」
機嫌悪そうに舌打ちをした隆也。
私はなんとしても2人というのは避けたくて、粘ろうとする。
しかし隆也の視線がそれを拒んでいた。
「…わかった。じゃあ、放課後。」
「あぁ。」
私は溜息をつきたくなった。
どうか仕事が早く終わるものであるように、心から願った。
そして、現在にいたる。
仕事というのは、今度の球技大会のルールが書かれたプリントをホチキスで止めること。
これならきっと頑張れば早く終わる。私は黙々と仕事をしていた。
早くこの空間から逃げ出したかった。
隆也といたら、気持ちがあふれてしまいそうで。
パチン、パチン、とホチキスを止める音だけが教室内に響く。
前なら私が一方的に隆也に話し掛け続けて、隆也がそれに淡々と答えてくれるというやりとりが繰り広げられていたのに。
好きだと自覚し、けれど隆也には他に好きな人が居るというと知って。
たったそれだけのことなのに、こんなにも変わってしまうなんて。
「…」
急に隆也に名前を呼ばれて、私の肩はビクンと跳ねた。
私は恐る恐る顔をあげて、隆也を一度見た。
鋭い視線が、突き刺さる。
私は視線を泳がせ、隆也と目を合わせないようにした。
するともう一度強く、、と呼ばれ、私の視線は逃げ場をなくす。
「何も言わずにそういう態度取られると、正直、うざい。」
「…え?」
「理由、聞かせろ。俺を避ける理由。」
真剣に言われて、私は目を丸くする。
やっぱり、避けていることは気付かれていたのか。
思ってみれば当たり前かもしれない。
だけど。
「別に、避けて…ない、よ。」
ここで折れてしまってはいけないような気がして。
私は勇気を振り絞って否定の言葉を口にした。
すると隆也はさらに視線を強める。
「避けてるだろ、どう考えても。ていうか昼放課のあの呼び方だって、おかしい。俺がなんかしたなら言えよ。」
隆也は、たぶん怒ってる。
それが体中にひしひしと伝わってきて、思わず目を閉じる。
「隆也は……悪くないし、なにもしてない、よ。」
小さくつぶやくと、隆也の溜め息の音だけが教室に響いた。
「じゃあ、なに。」
「だから何でもないってば!」
少し強く言うと、隆也は目を丸くしていた。
私は立ち上がって逃げ出そうと教室のドアを目指す。
しかし、それは叶わなかった。
パシンと腕を捕まれそのまま引っ張られる。
壁に押し付けられ、そのまま動けなくなった。
「ちょ、離して!」
「理由言えば離してやるよ。」
「意味わかんないっ、いやっ」
「意味わかんないのは俺のほうだし。」
「〜〜〜〜っ馬鹿隆也!」
そう言った瞬間、堰を切ったようにボロボロと涙が流れてくる。
やだ、隆也の前で泣きたくなんて無かったのに。
流れる涙は止まらなくて、私は顔を逸らす。
けれど黙っていたらなんだか無性にイライラしてきて、私はキッと隆也を睨んだ。
「全部、隆也のせいだ!馬鹿!」
「…」
「隆也なんて、隆也なんて好きになる予定じゃなかったのに…っ、隆也なんか、嫌い!」
「……おい」
「隆也のそばにいたら、もっと好きになっちゃうからっ、そばにいちゃいけないの!」
「…オイ」
「だから…だからっ」
「!」
強く名前を呼ばれ、私は肩をこわばらせる。
そして隆也は私をジィッと見つめてきた。
「俺は、別にお前に好かれても困らない。」
「嘘。」
私は隆也の言葉に首を振る。すると隆也は不機嫌そうに眉を寄せた。
「なんでそう思うんだよ。」
「だって、好きな人がいるって言ったッ」
「は?」
「それに、あの子に『迷惑なんだけど』って言ってたじゃない!」
「それは…」
「なのに、そんなこと言われても、嘘だってしか思えない!いいよ、諦めるから、もう少し待って、放っといてよ!」
いきおいよくそう言って、私は乱れた呼吸を整えるように肩を上下しながら息を吸う。
頭の中がグチャグチャでどうしたらいいのか何もわからない。
ただわかるのは、隆也が何も言わずに黙っていることだけ。
やっぱり、それが事実だから何も言わないんだ…、となぜかがっかりする気持ちが胸の中に浮かんできて、最初からわかってたはずなのに、やっぱりなぜか悲しくなってきて。
この場から逃げたい、と隆也につかまれ壁に押し付けられたままの腕を何とか壁から剥がそうと動かしていたら、いきなり私の腕を掴む隆也の手に力がこもった。
「すっげえむかつく。」
隆也がポソッとそう言った。
その言葉を聞いた瞬間、やっぱり、と思った。
やっぱり迷惑なんじゃない、と隆也を睨んだ。
けれど、私を見ていた隆也の眼が怒ってるように見えたから、すぐに目をそらす。
「むかつくなら、もういいでしょ、わかったから離してッ」
「わかってねぇだろ、どう考えても。」
「なにがッ」
「…そいつは、どうでもよかったから迷惑だったんだよッ」
隆也が、声を荒げた。
「に好かれて、迷惑なわけないだろ。」
「…それ、どういう、意味…?」
「……わかれ。」
「わかん、ない」
「……俺だって、のこと好きなんだよ。」
はっきりと私の目を見て言った隆也だけど、私が眼を丸くしていたら舌打ちをしながら私から目をそらした。
嘘、と呟くように言えば、嘘じゃねぇ、と返ってくる。
「ほ、本当?」
「…だから本当だって言ってんだろっ」
隆也はそう言って私の手を離した。そして、そのまま自分の席へ座りなおす。
「ほら、早く仕事終わらせるぞ。」
「うん…、あ、あのさ、隆也。」
「んだよ。」
「それって、つまり、あの、私たち、付き合うの?」
「…そうなんじゃね?」
涙の向こうは幸せ
(こうして私たちは彼氏彼女になった)