Glorious Days
(黒髪・たれ目・同じ苗字。私の付き合ってる人。)
「何これ、すっごー…」
駅前の大きなデパートで、アイコはかなりハイテンションだった。
夏休み1日目、私は約束どおりアイコと買い物をしていた。
浴衣を買うのが目的だから、一番最初に訪れた最上階の特設コーナー。
ここでは、浴衣と水着が売っている。アイコは浴衣の値段を見て息をのんでる最中だ。
「ねぇ、ー、浴衣って5万もするんだね。」
「え?うん、それが普通じゃない?」
「何いってんの!ユニクロだとすごく安いわよ?!一万もかからないんだから!」
「…ユニクロで浴衣売ってるんだ。」
うわぁ、カルチャーショックだ、と呟いたあと、私は自分が手にとっていた浴衣を見た。
白地に薄紫で綺麗に描かれた蝶と華。
流線が綺麗で、すごく私好みだ。
とりあえず浴衣はこれでいいかな。
お値段も…2万円だし。うん、お手ごろ。
「アイコ、まだ決まらないの?帯見に行きたいんだけど…」
「ちょ、ちょちょちょっと待ってよ!私、こういうのよくわかんないから選べない…」
「…アイコは大人っぽいから、黒みたいな色が似合うよ。」
「…黒ねぇ……」
アイコは顎に手を当てて、ウーン、と悩む。
首を傾げた瞬間、アイコの肩から長い茶色の髪がスルリと落ちた。
こうして私服姿のアイコを見てみると、制服の時とは違って見える。
元々美人だとは思ってたけど、すごく大人っぽい。
今日のアイコは、爽やかな感じの水色のシャツにバギーを合わせたキリッとしたファッション。
シンプルだけど、ものすごくアイコの魅力が引き立ってると思う。
私はといえば、緑のチュニックにバーバリーのショートパンツを履いて、足元はブーツからニーソックスをちら見せしてる。
アイコが結構オシャレさんだから、気合入れてみたんだ。
「ねぇ、これなんてどう?」
アイコと私のファッションを比べていたら、アイコがそう言って私に浴衣を見せた。
黒地に桜が散っていて、大人っぽい。あ、これは絶対アイコに合うなぁ、と思った。
「ぴったりだよ。絶対似合う。」
私は笑って言って、じゃあ帯を見に行こう、とアイコと歩いていった。
私は白からピンクへのグラデーションの参弱生地の帯を選んで、アイコは小さな桜の柄の白の帯を選んだ。
お互いに納得して、それらを籠に入れる。
カバンも選んで、ふぅ、と息をついた。
「じゃあ、これでいいかなー。レジ行く?」
「…何いってんの、。まだ買うものがあるじゃない!」
アイコはそう言って、意気揚揚と私の腕を掴んだ。
向かった先は、言わずもがな、水着売り場だ。
「ふんだ…、梓のヤツ、私の水着姿を見れないで後悔すればいいのよ!」
「梓って?」
「花井よ花井。花井って、名前が梓なの。」
「可愛い名前だねー。」
「でしょ?本人嫌がってるんだけどね、知らないわ、名前で呼んでやる。」
…ようするに、むかつくから名前で呼ぶ、みたいなかんじかな。
私は笑って、アイコが手に取っている水着をチラリと見た。
黒のビキニ。露出度は高め。
…スタイルがいいアイコだからこそ着れる水着だな、と思う。
……私には絶対に無理。
「うーん…、浴衣が黒だから……水着は白が良いかな。」
アイコはそう言って、その黒の水着がかかっていたところの数枚後ろから同じデザインの白の水着を取り出した。
…よく見てみたら、紐ビキニだ。
でも、アイコなら似合いそう……。
私はそう思いながらも、自分の水着を選び始めた。
スタイルには自信がないから、ワンピース系でいいかな…、と青のワンピースタイプの水着を手に取る。
すると、自分の水着を選び終えたアイコが、駄目だよ!と言ってきた。
「、ワンピースなんてだめだめ!絶対ビキニ!お腹出しなさい。」
アイコはそう言って、私に一着の水着を手渡した。
茶色地に白のドット柄のビキニ。
ホルターネックで、胸が小さい私でも安心して着れるデザインだ。
しかもパレオが付いてるから、結構露出は少なめ。
アイコはセンスがいいな…と思いながら私はそれを受け取って籠に入れた。
「これ、かわいいからこれにする。ありがと、アイコ。」
「どういたしまして。それ着て阿部くんと遊べるといいね?」
「でも、隆也、部活とかで忙しいみたいだし…」
アイコの言葉に私がシュンとして答えると、バカー!と笑っておでこを突付かれた。
私はわけがわからず、アイコを見つめる。
「女は積極的に押して押して押しまくるのよ。」
「う…うん」
そんなの私には無理だと思うけど、とりあえず頷いておいた。
するとアイコは満足したらしく、じゃ、レジに行こう、とさっさと進む。
私はそんなアイコに置いていかれないようその後ろに続いた。
「ふはー、疲れたー」
家に着いたのは、夜の8時過ぎだった。
朝から買い物してたのに、帰りがこんなに遅くなるとは思っても無かったから自分でもびっくりだ。
あの後、私とアイコはデパートの中のショップを巡りに巡った。
夏休みともなれば、私服を着る機会が多い。
だから、買っておこうとしたのだ。
結局、トップスを4着、ワンピース2着、ボトムを3着、サンダルを2足買った。
ものすごくいっぱい買ったと自分でも思う。アイコもびっくりしてたし、うん。
買った洋服をクローゼットに閉まって、カバンの中から携帯を出した。
チカチカとお知らせランプが光っているのに気付いて、パカッと開く。
『不在着信:1件、メール:1件』。
とりあえずメールを確認すると、隆也からだった。
なんだろう、とメールを開く。
『明後日、暇なら祭行かねぇ?』
受信時間は19:02。
届いてからもう1時間以上たっている。
何で気付かなかったんだろう、そう思いながらすぐに返事を返した。
もちろん、OKの返事。その後、不在着信の方をチェックしようと、着信履歴を見た。
父からだった。
私はすぐにその着信履歴を削除した。
ガールズトーク
(嵐の前の、楽しいひと時を)