Glorious Days
(黒髪・たれ目・同じ苗字。私の付き合ってる人。)






よくよく考えてみると、ココ、隆也のお部屋だよちょっと!!!!
えー、私、阿部、17歳、独身、垂れ目で口の悪い彼氏がいます。
って、混乱に乗じて自己紹介しちゃった!えへ!
って、ちがーう!


「…こういう場合ってどうすればいいんだよちょっとていうか隆也どこへ行った?!」


隆也の部屋に一人残された私は、だいぶ混乱していた。
だって、だって、だって、隆也の部屋だよちょっと!(二回目)
テンションがおかしい…。明らかに今の私は傍から見たら挙動不審だ。
とりあえず辺りをキョロキョロ見渡す。
…あ。


「エロ本って、あるのかなぁ。」


そりゃあ、隆也は一応…け、思春期を迎えた健全な男の子、なんだし。
…気になる。ものすごく、気になる。


「オーソドックスに言えば、ベッドの下?」


私は呟きながら恐る恐るベッドの下を覗き込んだ。
あ、何かある。…ダンボール?もしかして、あの中に?
…気になる!
私はそのダンボールに手を伸ばした。
が、奥にありすぎて、手が届かない。


「届かない…よー」


腕が短いのかなぁ、と泣きそうになりながらも、何とか手を届かそうと腕を伸ばした。
うー、とうなりながら、何度も何度も腕を伸ばす。


「もう、ちょっと………あ、届い…!」
「何やってんだよ」
「ぎゃっ、隆也!」


届いたと思ったら、後ろから隆也の声がした。
私は驚いてすぐに体制を戻し、後ろを見る。
隆也はものすごく眉間に皺を寄せてた。


「ベッドの下になんか落としたわけ?」
「う、うん、ちょっと、……あ、携帯を…落としたの!」
「…どう見たって携帯はそこのテーブルの上に置いてあんだろ。」


隆也はそう言って、部屋の真ん中に出されたミニテーブルを指差した。
ぎゃっ、もろバレ!


「嘘つくなら追い出すぞ。」
「うううー」
「本当はなんなわけ?」
「ちょ、ちょっとした好奇心が…」
「は?」
「……た、隆也も!健全な男のこなわけだし…、オーソドックスに、ベッドの下を…」
「はぁ?」
「…つまり!た、隆也は、エロ本持ってるのかなって、思ったの!それだけ!」
「…バカじゃねー?」
「ご、ごめんなさいね!どうせバカですよ!フンだ!」


恥ずかしくて居たたまれない…。
私は隆也から視線を逸らし、ベッドを見た。
…あ、ここでいつも、隆也寝てるんだよね…。
うわッ、いまさらながらに、また緊張してきた。


「で、見つけれたわけ?」


緊張している私をヨソに、隆也はそう言って私の向側に座った。
手に持っていた二つのコップを、私と隆也の間にあるミニテーブルに置く。
コップの中の液体は琥珀色、たぶん、麦茶かな。


「なにを?」
「エロ本。」
「…わかんない。変なダンボールがあっただけ。」
「あー、あれは違うな。」
「……じゃあ見つけれてない。」
「だろうな。」


余裕な笑みでそう言った隆也。
私は麦茶をゴク、と一口飲んだ。
あ、冷たくておいしい。


「つーかさ、お前今日どうすんの?泊まってくわけ?」
「へ?」
「だってもう夜遅ぇし。お袋に聞いたら、泊まってってもいいってよ。」
「え、本当?」
「あぁ。つか、明日から旅行だから、泊まってくなら明日朝早くに送ってってやるよ。」
「旅行?」
「言ったろ、盆休みは親の実家に行くって。」
「あぁ、そういえば…。ていうかもう盆休みなんだ。」
「お前季節感なさすぎ。」


隆也はあきれたように私を見た。
私は少し考えて、頷く。


「泊まってっていいなら、泊まりたいなぁ。帰りたくないし。明日になったらたぶん父さんもいないだろうし。」


私はそう言って、でも、と続けた。


「なにも持ってきてない…。着替えとか。」
「じゃあ、コンビニにでも行くか?」
「あ、行きたい!」


立ち上がった隆也に続き、私も立ち上がる。
カバンから財布を取り出して、隆也の部屋を出た。
階段を下に降りて、リビングの前を通りかかる。


「あ、挨拶してもいい?」
「あー、いいんじゃねぇ?」
「なんでソコ疑問系かなぁ…。」


隆也の答えに少しツッコミを入れて、私はリビングに入る。
すると、アラ!と隆也のお母さんが近づいてきた。


「あの、今日はお世話になります。折角の旅行の前日なのに、お邪魔しちゃって…。」
「いいのよいいのよ!もう、タカにこんな可愛らしい彼女さんがいるなら、旅行になんて誘わなかったのに!」
「いえっ、そんな…」
「あ、もしよかったら、一緒に行く?」
「えっ?」


隆也のお母さんが笑顔で聞いてきたから、思わず声をあげた。
すると、ソファにすわってテレビを見てた隆也のお父さんが、おっ、と声をあげ私と隆也のお母さんを見る。


「いいんじゃないか、それ。」
「そんなっ、折角の家族旅行なのに…!」


慌ててそう言えば、隆也のお母さんが私の手を握った。


「それに、私も男三人に囲まれてるより、若い女の子とおしゃべりしたいわ!」
「で、でも…!」


嬉しそうな隆也のお母さんの雰囲気に圧倒されながらも、私は隆也に助けを求めるように視線を送った。
すると、隆也は溜息をついて私と隆也のお母さんとの間に割り込む。


「つか、が困ってんだろ。」
「なによ、タカだってこの子がいたほうが楽しいんじゃない?!」
「はぁ?」
「タカのことだから、どうせデートもしてないんでしょ、野球野球って言っちゃって!」
「……」
「ほぉら、図星。デートしちゃえばいいじゃない、旅行中。」


隆也は黙り込んでしまった。
…デートかぁ…。いいかも。なんて、顔に出てしまったらしい。
隆也のお母さんはニンマリしながら、私に、ネッ、と笑いかけてきた。


「…でも……」
「私たちは全然構わないのよ!だから、ね?」
「…あの、じゃあ……」


私は隆也をチラリと見た。
隆也は、お前がいいならいいよ、と興味なさそうに言う。


「じゃあ、お願いします。」


ペコ、と頭をさげてそう言った。


「じゃ、俺らコンビニ行って来るから。」
「気をつけていってらっしゃいね。」


私は隆也と家を出た。
























「いい人だね、隆也のお父さんとお母さん。」
「そうか?」
「そうだよ、羨ましい。」


コンビにまでの道、私は隆也と歩きながら会話を交わす。
真っ暗な道を、白い街頭の光が照らしていた。


「私の親ね、結構ひどい人で。」
「へぇ…」
「といっても、母親だけ。私の本当の父親は誰か知らない。」
「は?」


私の言葉に、隆也は疑問を持ったらしい。


「私の母親は、お金持ちってことをいいことに散々遊んでたの。
それで、色々な男の人と関係を持ってた。
お祖父ちゃんは、それを知ってたけど止めれなかったんだって。
だけど、幸せになってほしいからって、自分の一番将来有望な部下に、私の母親を嫁がせた。
それが、私の言うお父さん。
だけど、私の母親には6歳になる他の男の子供がいたの。
それが私。
私の母親は、お父さんが嫌いだったみたい。
それで、お父さんに懐いた私も毛嫌いしていた。
母親は結局、私が8歳の時に死んだ。
あっけなかったよ。
でも、私は平気だった。
だって、お父さんがいてくれた。
お父さんは母親と比べ物にならないくらい優しくて、愛情をいっぱいくれた。」


私がそこまで言うと、黙って聞いていた隆也が、ちょっと待て、と私の言葉を止める。
私は何?と隆也を見た。


「なら、なんで会いたくねぇんだよ?」
「この話には続きがあるの。」


もっともな隆也の疑問に、私は苦笑した。


「お父さんはね、ものすごーく将来有望で、ものすごーくいい人。だから、モテるの。」
「へぇ。」
「まぁ、まだ30代だしね。それで、新しい奥さんを、連れてきたわけ。
私が11歳の時。その奥さんがね、うーん、なんていうか。私のことを、よく思ってなかった。
次の歳には子供が生まれて、その子はお父さんの本当の子供。
普通に考えたら、お父さんは私よりその子を可愛がるはず。
奥さんはもちろんそう思ってたらしいよ、私もそう思ってた。
だけど、お父さんはその予想を裏切った。
私もその子も、平等に愛してくれた。」
「ならいいんじゃ…」
「それがね、よくないの。
奥さんはそれで、更に私をよく思わない。
私はお父さんが好きだけど、そこにいちゃいけない存在だと思った。
だけど、それでもソコにい続けた。
そしたら、ね、ある日…」


私は言葉を途中で切り、息をつく。


「奥さんが、お父さんに言ったのよ。
あんな子、いなくなればいいのに!って。
お父さんは、何も言い返さなかった。
その瞬間、あぁ、駄目だ、って思った。
私はね、お父さんに『ココから出てけ』って言われる前に逃げ出したの。」
「…ふーん。」
「私が『1人暮らししたい』って言ってもお父さんは何も言わなかった。
私は、怖いの。『もう戻ってくるな』って言われるのが怖くて、だから、逃げてるの、今でも」


小さくそう呟けば、隆也がハァ、と息を吐いたのが聞こえた。
呆れられたかな、バカじゃないかって思われたかな、心の中が、そわそわした。


「俺、お前のそのオトウサンってのに、会いたいかも。」
「は?何言ってんの?」
「そんで、聞いてやるよ。アンタはにもう戻ってきてほしくないのかって。」
「ちょっ、嫌だよ!もしそれで、本当に言われたら…!」
「逃げてるよりマシだろ。それに、もし言われたら俺が貰う。」
「はぁ?!」


隆也の言葉に、顔が熱くなるのを感じた。
すると、隆也がそれに気付いたのか、優しく私の頭の上にポンと手を置いた。


「だから、そんな泣きそうな顔、すんなよ。」
「…泣きそうじゃない。」
「まぁ、どっちでもいいけど。ほら、遅くなんねぇように、急ぐぞ。」


隆也はそう言ったっきり、何も言わなかった。
ただ、下を向いて歩く私の手を握り、急ぐと言ったわりには遅く歩いていた。


…隆也のバカ。
本当に泣いてしまいそうだった。
哀しいからじゃない、なんでか、嬉しくて。








































深い闇を照らす君
(悲しみの底にいた私を連れ出したのはあなたのぬくもり)